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アート特集 ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 2


INTERVIEW

ベネチア・ビエンナーレ 日本館代表作家

塩田千春さん

今年のベネチア・ビエンナーレは、総合キュレーター、オクウィ・エンヴェゾー氏の監督の下、社会的なテーマが投げかけられ、大量虐殺事件や経済格差を題材にしたものなど、硬派な作品が注目を浴びる傾向にあった。そんな中、全く別のアプローチで作品に取り組み、称賛を浴びていたのが、塩田千春さん。現地イタリアで、日豪プレスの独占取材に応じてくれた。

――塩田千春さんの作品「掌の鍵」についてお教えいただけますか。

今回題材とした「船」と「手のひら」には関係性があるんです。船って、手のひらに似ていると思いませんか?その船が、5万本の鍵を持っているイメージなんです。実際に使用した鍵の数は、18万本に及びました。

――その鍵はどのように集めたのですか。

募金箱のようなボックスを世界中の美術館に配置して、そこへ鍵を寄付してもらうような形で集めました。

「掌の鍵」/塩田千春©Sunhi Mang

今作のイメージ写真©Sunhi Mang

――海外在住の日本人作家が日本館で出品するのは、今回が初めてのことですね。

だんだん日本もオープンになってきたなと感じます。私は、美術の世界に国境は存在しないと思うんです。今回の作品にもそうした考えを込めていました。鍵というのは人の形に似ていると思っていて、私には大きな頭に小さな体、長い足のように見えます。だからその鍵を世界中から集めて、それを赤い糸で編む、ということを作品の中でやりたかったんです。そこに日本は関係なく、1人のアーティストとしてこの作品を発表した私が、たまたま日本人であっただけなんです。

例えばもし今戦争が起こったとしても、アートでつながった人たちからは、その政治的背景を無視してでも「ああ、あの時の日本人アーティストは元気でやっているかな」と思ってもらえると思うんです。アートは、人と人に直接感動を共有させることで、その人たちを個人レベルでつなげていくんですよ。その際には言語・国籍・文化・政治的背景をも飛び越えてしまうので、私はアートとは、唯一国境を越えて国と国とをつなげられる存在だと思っています。「アート」という共通言語で語り合えるようでありたいし、自分の作品もそのようにして語られる作品でありたいなと、ずっと思っています。

――日豪プレスはオーストラリアの新聞ですが、来豪されたことはありますか?

昔、交換留学でオーストラリア国立大学キャンベラ・スクール・オブ・アートに7カ月間滞在していました。それが私にとって初めての海外滞在だったんです。初めてのことばかりでカルチャー・ショックを受け、忘れることのできない思い出になりました。その後も2013年には文化交流使として再びオーストラリアに派遣され、シドニーや、メルボルン、タスマニア、アデレード、ブリスベンなどを回っていろいろなプロジェクトやワークショップ、講演をしました。来年はシドニー・ビエンナーレにも作品を出す予定です。

塩田千春氏

――オーストラリア人作家、フィオナ・ホールの作品についてはどう感じますか。

留学していた時に、アデレードを訪れて、アリス・スプリングスにいたアボリジニの人たちに会ったんです。その時、大地のエネルギーを感じるというのはすごいことだなと感銘を受け、アボリジニについて調べたりもしました。そんな背景もあったので、彼女の作品もすごく面白いなと感じましたね。

――日豪プレスの読者へメッセージをお願いします。

オーストラリアにはとても縁があるような気がして、第2の故郷のように感じています。皆さんにもぜひ、私の作品を観ていただけると嬉しいです。

ベネチア・ビエンナーレ・ゲスト

アート・プロデューサー

山口裕美さん

今回のビエンナーレについてさらに詳しく知るべく、東京から本展を訪れていたアート・プロデューサーの山口裕美さんにもお話をうかがった。同展の歴史や旧オーストラリア・パビリオンについても知る彼女の話は一読の価値あり。

――まず、自己紹介をお願いします。

東京でアート・プロデューサーをしています山口裕美と申します。1999~2001年までの2年間は、夫の転勤でオーストラリアに住んでいて、そのころはジン・シャーマン氏やレイチェル・ケント氏をはじめとする素敵なアート関係者にお会いすることができました。

――ベネチア・ビエンナーレはどのようなイベントであると考えますか。

アーティストのオリンピックともいわれますが、実際には賞をめぐって競うというよりも、このために世界中から集まってきたたくさんの人々の目に作品を触れさせる機会である、という側面が大きいと思います。そうしてここで実力を発揮したアーティストが、次へと大きくステップアップしていきます。

――大変歴史のあるイベントですが、これまで参加されてきて、その歴史の深さなどを感じる瞬間などはありましたか?

120年の歴史があるベネチア・ビエンナーレですが、これまで毎年6月第1週の週末の一般公開に先立って行われていた「ベルニサージュ」を、今回初めてミラノ万博の開催日に合わせて5月に行うことに変更したんです。いくらミラノ万博があるからとはいえ、120年間も続いている期間を1カ月も早めてしまうのは大胆過ぎると思うのですが、それをやってしまうベニスは面白いですね。やっぱりこれによってさまざまな混乱が起こったりして、作家も作品を間に合わせるのが大変だったそうです。ミラノ万博に合わせることで、それなりの経済効果などは期待されているようですが…。

企画の観点からいうと、会場が年々広くなっていますね。また、企業を誘致したり、お金がある国に対しては新企画を持ちこめるチャンスを与えたりしていて、経済格差のようなものが出てきてしまっています。そこは問題であると思います。

――塩田千春さんの作品「掌の鍵」を観た感想を聞かせてください。

これまで塩田さんの作品というと「共通の記憶」「実在と不在」「絆」といった主題が掲げられていますが、今回の作品もまた、人種も宗教も越えてすべての人の心に響くような「人間愛」が伝わる素晴らしい作品に仕上がっていると思います。

今回は一般の人から預かった鍵を使用していますが、数ある鍵の中には、辛い思い出のあるものもあったと思うんです。それを作品にして世界中の人に観てもらうことで、良いものに転換するという役割も果たしています。そんな側面もまた、非常に素晴らしいと思います。

――ほかの国の人々からの塩田さんの作品への反応はどうですか。

他国から来たゲストと話すと必ず、「日本パビリオンの作品は良いね」と言われます。また、皆さん塩田さんの作品を観て、「自分のことだと思った」と言うんです。そんな風に多くの人から共感を呼ぶ作品だからこそ、ここまで人気を博したのだと思います。彼女は、今回のベネチア・ビエンナーレで最も成功したアーティストの1人です。

――オーストラリア館に対する印象と、フィオナ・ホール氏の作品の印象は?

オーストラリアのパビリオンは、従来の2階建てからフラットになったことで、空間がまとまって広がりが出ましたね。

フィオナ・ホール氏は以前に記事を書かせていただいたこともあって、大好きなアーティストの1人です。彼女の作品は、身近にある素材を使いながらも深いテーマを投げかけてくるんです。さらにそこにはユーモアも感じられ、今作も大変興味深かったです。

――最後に日豪プレスの読者へのメッセージをお願いします。

今年のベネチア・ビエンナーレは11月まで開催されています。もしベネチアに来る機会があれば、まずは、オーストラリアと日本のパビリオンを観ていただきたいです。ほかに、アルセナーレの会場にも、ディレクターである奥井さんが選んだ素晴らしい作品群があるので楽しんでいただければと思います。会場は広いので、ぜひ歩きやすい靴を用意して来てくださいね。

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