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インタビュー 卍ラインさん

卍ラインさん

レゲエに乗せる魂の叫び
若者を牽引する生の声とは

レゲエ・アーティスト、卍ライン

4月上旬、レゲエ・シンガーの卍ラインがオーストラリアの地に降り立った。東日本大震災の影響でスケジュールに若干の変更は出たものの、予定通りパース、ブリスベン、シドニーと豪国内3カ所でのライブを慣行。タイトなスケジュールの中、最終日となったシドニーで、本番前に話を聞くことができた。

取材・文=荒川佳子(編集部)

レゲエはやっと見つけた自己表現方法

 通をもうならせる作り込まれたトラックに乗せた強烈なメッセージで若い聴衆に衝撃を与え、音楽界でも異質にして不動の地位を築いてきたアーティスト、卍ライン。内から湧き出る素直な想いを、目の前まで足を運んでくれた観客にストレートにぶつける現場(クラブ、ライブなどの意)第一主義のその姿勢は、デビューからおよそ5年経った今も一貫して変わってはいない。己の想いを自らの声で届けるということ。その背景には、それまで役者としても第一線で活躍してきた彼ならではの、こんな経緯があったことにも触れておきたい。「それ(役者)って人が作ったものを表現するわけだから、いつもどこかで“自分発信じゃない”っていうジレンマを抱えていたんです。で、自分の考えていることを伝えたいって衝動にどんどん駆られていって」  そんな折、彼は、それまでも自然と親しんできたレゲエという音楽の世界に足を踏み入れていくことになる。適当な行き場を見つけられずに長いこと彼の中で燻っていた想いたちは、ひとたびリズムに乗ると、まるで命を吹き込まれたかのようにその存在感を増していった。この時の心境を、彼は「やっといい表現方法を見つけたって感じ」と語る。その後もメッセージは次から次へと溢れ出し、これまで3枚のアルバムが生まれた。  そもそもレゲエとは、ジャマイカのストリート・ミュージシャンたちが市民の不満を代弁し、即興でリズムに乗せて歌にしたのがルーツといわれる。レベル・ミュージック(反抗の音楽)とも呼ばれるように、社会や政治などへの批判や反抗がテーマとされることも多い。「パンクやロックなんかも共通して“わが道を行く”っていう精神だけど、やっぱりレゲエの持つメッセージ性の強さや社会への影響の与え方は何か特別だと思う」。そのスタイルは、彼がメッセージを発する時、常に核にあった“常識を疑ってかかれ”“自分の信じられる道を突き進め”という声と共鳴した。

生の感情を腹の底から 発信していく

「だからといって何もすべての歌が真面目な内容である必要はないんです。朝起きてから寝るまでに起こるいろんな感情すべてを、腹の底から叫んで発信して、そのまま音楽にしていきたい。そうやって普段からの考え方やものの捉え方を知ってもらえていてこそ、まじな呼びかけが聴く人の耳にすんなり入っていって、信用してもらえるんだと思うし。生の感情が多ければ多いほど、伝わっていくはず」 だから彼は、楽しそうなことにも、苦しそうなことにも、まるで恐れを知らないかのように、平然と飛び込んでいき、そしてそこで生の声を上げる。それが彼の言う、“信じた道を突き進め”ということなのだろう。感情を表に出すことがタブーとされる政治や報道の立場からは届かない部分。そんなところにまで難なく入り込み、世の中に訴え続けているのが、卍ラインというアーティストなのだ。

より良い日本の未来のために

 そうはいっても、「日本はこれまでとても平和で幸せだったから、その“レベル”の部分が、伝わりにくい部分があった」というのも事実。10~30代を中心に形成されるレゲエのリスナーには、その呼びかけの示すところ、つまりは自国の社会情勢に無関心な者も多かった。しかし、3月に起きた東日本大震災をきっかけに事態は一変。これ以上目をつぶることは許されない、という空気が彼らの中でも蔓延し、卍ラインの楽曲や発言にも、これまで以上に注目が集まっている。  この一連の出来事によって、今後メッセージや活動の内容に変化はあるか?――という問いには、「変わんない。むしろ最近よくスタッフと話すのは、これまで言ってきたことの持つ力が、ここへきてすごく増してるよね、ってこと。これまでずっと歌ってきたことは、どれも普遍的なメッセージだから」と答える。  今回のライブで披露された楽曲を改めて聴いてみると、この彼の台詞に納得がいく。地上9階の高さからの転落事故で九死に一生を得た経験から「生」に対する赤裸々な想いを綴った「IKIRO」や、原発を推進する政府の方針に異論を唱え、クリーン・エネルギーを推奨する内容の「Change the energy」、そして日本人として誇りを持って生きていこうというと呼びかける「SAMURAI」。これらはすべて震災よりもずっと前から卍ラインが声を大にして唱えてきたことだ。  反逆反逆といえば、よくあるただの若者の戯言や文句に過ぎないと思う人もいるかもしれない。しかし卍ラインのいう“レベル”の思想は、「日本を良くしたい」という純粋な想いから生まれているのであって、自国の明るい未来を“建設的に”築いていきたいという一若者の切なる願いだ。「心が大事」と彼は言った。そのために卍ラインはこれからも歌い続ける。その音の向こうで響くもの。それは、自身いわく、「魂の叫び」だ。

プロフィル ◎1979年5月7日生まれ。神 奈川県横須賀市出身。2006年にレゲエ・ アーティストとして本格始動し、年間 100本近くのライブをこなす。「卍LINE」 「VORTEX」」「TIME WAVE」とこれまで に3枚のアルバムをリリース。窪塚洋介の 名で俳優としても活躍しており、代表作 に映画『GO』『ピンポン』などがある。

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